映画評『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
ご存知、1995年にテレビ放送され、社会現象を巻き起こした『新世紀エヴァンゲリオン』の完全新作劇場映画である。エヴァ自体、筆者は数年前にDVDで一通り観ていたので、完全新作である今作の『ヱヴァンゲリヲン』も気にはなっていた。庵野総監督が所信表明で語った、「誰もが楽しめるエンターテイメント映像」を目指したエヴァとはどういうものなのか。そこに少しばかりの期待を抱きつつ、映画館に出向いた。
ストーリーは、TV版の第6話「決戦・第3新東京市」の“ヤシマ作戦”までを描いており、ストーリー展開はTV版とさほど大きな変わりはない。しかしながら、TV版を観ている人でも、少しは驚かされるオリジナルの展開が用意されている。全体的に見ると、シンジのエヴァに乗ることへの苦悩が色濃く描かれており、TV版よりも流れがすっきりおさまっていて、見やすい内容になっている。そして、新劇場版のウリの一つといえる、最新のCG技術を駆使して描かれた第3新東京市やエヴァ、使徒などの映像表現は魅力的。特に“ヤシマ作戦”においては、絵コンテを担当した樋口真嗣氏の並々ならぬこだわりもあって、ある意味、樋口氏の監督した『日本沈没』よりも迫力感・躍動感のある映像に仕上がっている。TV版を観ているから、今作を観ないというのは大損だ。
ただ、庵野監督の所信表明であった「誰もが楽しめるエンターテイメント」という点で見ると、やはり初心者にとってはわかりづらいところも多い。これから初めてエヴァに触れるという人は、最低でもWikipediaなどで基礎知識を学んでから観に行ったほうが入り込みやすいかも。もっとも、四部作のうちの「序」であるので、まだそう評価するのは早計かもしれないが。
TV版と変わらない部分もあった「序」であったが、エンドロール終了後に流れた「破」の予告編によれば、早くも新劇場版オリジナルの展開を見せ始めようとしている。月より降り立つエヴァとは一体!?パイロットはいったい誰なのか?
ともかく庵野監督には早く「破」を作って欲しい。
映画評『ベクシル -2077日本鎖国-』
斬新な映像で話題を集めた『ピンポン』の曽利文彦監督の最新作。曽利監督が3Dフルアニメーションを手がけるのは、プロデューサーとして参加した、2004年の『APPLESEED』以来。今回は自ら監督として、最先端の映像技術を駆使し、全世界に殴り込みをかける。
まず、設定自体は面白い。古くは江戸時代の「鎖国」という概念を近未来の日本に持ってくるというのは、なかなか面白い発想である。しかも、ハイテク技術を駆使しての「鎖国」というから、これぞ近未来の「鎖国」という形だ。
そしてその最新の映像技術を十二分に発揮したアクションシーンは迫力満点。このシーンだけでもついつい見入ってしまい、彼らの行く末を固唾を飲んで見守ってしまう。国内外から集めた実力派アーティストのバックミュージックも魅力的。映像にうまくハマっている。
しかし、技術レベルは高いのだが、ストーリーがそこまで追いついていないのが残念。ストーリー展開や登場人物の行動に腑に落ちないところもあり、オチもなんとなく釈然としない。ストーリー面では、『APPLESEED』のほうが一枚上手だったような気がする。(というか、若干『APPLESEED』と似た展開もあった気が・・・。)
ストーリー面をもう少し強化すれば、かなり面白くなったと思うのだが・・・。
映画評『河童のクゥと夏休み』
『クレヨンしんちゃん』シリーズの『オトナ帝国の逆襲』、『アッパレ!戦国大合戦』で、大人たちにも感動を与えた、原恵一監督の待望の最新作。『オトナ帝国』『戦国大合戦』で泣かされた身としては、早く原監督の最新作が見たいとずっと思っており、待ちに待ったという感じである。
原作は小暮正夫の児童文学。江戸時代の河童が現代に蘇り、そこで巻き起こる騒動を描いているが、そこから原監督自身がオリジナルの要素を加えて、大幅に脚色している。「日常」のなかに、「非日常」の河童が入り込むというあたり、原監督が好きだと言う藤子・F・不二雄作品に通じるところがある。それゆえか、随所に『ドラえもん』や『エスパー魔美』を彷彿とさせるエピソードや演出がちょろちょろ出てくるわけで・・・。(クゥに刺身を与えるあたりは『のび太の恐竜』だし、オッサンの過去なんて『ドロン葉』だし、マスコミが大騒ぎするところなんて『ウソ×ウソ=パニック』だよなあ・・・。他にもあるかも。)
しかし、そんな少し不思議な世界観もさることながら、原監督の凄いところは、「日常」を緻密に、丁寧に描いているところにある。これまでのアニメ映画であれば、ほぼ間違いなく描かれないであろう人物描写や何気ない行動までも、ここまでやるかと思うぐらい丁寧に描き、時にはそれをじっくりと見せる。アニメ映画でそれをやろうとしたら、退屈されるだろうと思われがちなのだが、しかし、この作品ではそんなことは一切感じない。むしろ飽きないくらいだ。若草恵氏の秀逸な音楽が効果的に使われ、まるで日本映画を観ているかのような錯覚に陥った。これこそ、原監督のやりたかった映画だったのだと感嘆させられる。最終的に3時間分の尺になってしまい、切らざるをえなくなってしまったのも頷ける。
もちろん、この作品の重要点は、オッサン、瞳、菊池紗代子という、三大脇キャラ(?)の思わぬ活躍ぶりにほかならない。彼らの姿に、ときには笑い、ときには涙し、ときには心を躍らせた人も多いだろう。さすがにここで改めて言う必要もなかろう。
とにかく、(ジブリじゃない)アニメ映画だからといって敬遠せず、とにかく観てほしい。
これはれっきとした「日本映画」である。
映画評『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』
冒頭に登場のケツだけ星人といい、ゲストキャラのお駒夫人といい、そして野原一家といい、今回はミュージカル色が前面に出ていて、観ているこっちが不思議と爽快かつ明るい気分にさせてくれる。そのリズミカルな歌も耳にいつまでも残ってしまう。戸田恵子演じるお駒夫人はまさに一級品。見事なハマリ役だろう。
その一方で、『クレしん』シリーズの伝統(?)であるお下品なネタやらパロディは健在。今回は、過去シリーズのネタも借用していたようで、ケツだけ歩きやらキン○マ攻撃やらアフロジャングルやら、ファンにはニヤリとするシーンが満載。もちろん、この話のメインテーマである、野原一家(もちろんシロも)の家族愛にはホロリとさせられ、見事なエンターテイメント映画に仕上がっている。久々に『クレしん』映画で大いに楽しませてもらったと思える作品だった。
ただ、お駒夫人らひなげし歌劇団が、なぜ爆弾を狙っていたのか、そこらへんの意図があまりよくわからなかったのが残念。具体的に描けば、もっと面白くなったと思う。
映画評『サマータイムマシン・ブルース』
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『踊る大捜査線』シリーズで知られる本広克行監督が、劇団ヨーロッパ企画の戯曲を映画化したSFコメディ。「タイムマシン」が登場するからには、舞台は遥か昔か未来・・・と思いきや、行き先は昨日というスケールの小さいもの。だが、面白さは十分に保証済みの映画だ。
「過去」を変えることで「今」を変えるという『バブルへGO!』などとは違い、こっちは「過去」を変えようとすることで、逆に「今」がなくなってしまうという危機を描いている。そこから歴史を変えさせないように彼らは奮闘するのだが、その行動が結果的につじつまが合い、ひいては時の壮大さを伺わせるものになっている。前半の登場人物の不可解な行動なども最後まで見ればよくわかる。あのエアコンのリモコンがあれだけの時を経てきたということも納得がいく。まさしく「時をかけるリモコン」だ(笑)
結果を見れば、この作品でのタイムトラベルの描き方は、「時間」はそう簡単に変えられるものではない、不可避な力を持った存在だということである。そんな力に抗おうと思ったのか、主役の甲本拓馬の最後でメンバーにある問いかけをする。
「過去」よりも変えたいもの、それは…。それはそれで、かなり困難かも。
映画評『名探偵コナン 紺碧の棺』
GW恒例となった『名探偵コナン』劇場版シリーズの第11作目。今回は、2人の女海賊が遺したという財宝が眠る神海島を舞台に繰り広げられるサスペンスだ。
冒頭からいきなりのアクションシーン(それも、佐藤刑事が、ルパンと不二子の覆面をした強盗犯を追うカーチェイスだ。)でさっそうと飛ばしてくれる。(だけど、出す必要性があったのかどうか疑問。)
やがて、舞台は神海島に移るが、そこからは財宝を狙う人たちの思惑が絡み合い、事件が複雑化の様相を見せる。何でもないような登場キャラが、実は事件解決の手がかりを教えてくれる重要なキーパーソンだったり、いつもは頼りない高木刑事が今回は機転を利かせたところを見せたりと、意外性のある展開を見せてくれる。これまでのシリーズとは、一味も二味も違うストーリーに、まだまだコナンも捨てたものではないと思う。
欠点を挙げるとすれば、女海賊2人と重ね合わせて、蘭と園子が大活躍するということを予告編などで伺わせていたのだが、その割にはちょっと薄っぺらだった気がする。もう少し彼女たちの活躍を描いてほしかったところ。あと、コナンたちが海底遺跡から脱出するあたりのシーンは、少しムリヤリな気も・・・。こういうご都合主義的なところもさすがはコナンだ。とはいえ、美馬和男がラストシーンで言ったセリフを聞くと、それはそれでよかったのかもしれない。
テーマ:劇場版名探偵コナン 紺碧の棺 - ジャンル:映画