書評「テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅」

最近、ちょっとした鉄道ブームだという話を耳にする。確かに『特急田中3号』というテレビドラマが放送されたり、月刊IKKI(小学館)に連載されていた漫画『鉄子の旅』がアニメ化(CS放送)されたり、関口知宏の鉄道旅行番組が大人気だったりと、そういう気配であることは感じてはいるんだけど、どうも今ひとつピンと来ない。本当に鉄道ブームだったら、例えば鉄道模型が物凄い売れ行きだとか、『電車でGO!』の完全新作が発売されて大ヒットという展開があっていいと思うのだが・・・・・・え、違う?
本当に鉄道ブームなのかどうかはともかくとして、それに便乗してか、「鉄道コーナー」などとか言って、鉄道関連の本を集めたコーナーを作った書店も現れちゃって、で、そこに必ずと言っていいほど置いていそうな新書がこれである。
この本はテツ(鉄道ファン)歴50年の著者が伝授するテツ入門書である。というよりはむしろ、テツの生態(?)を描いた観察本と言うべきだろうか。普段の電車通勤でも、テツはどういうところに楽しみを見出すのか、旅行ではどういう電車を使いどんな旅を楽しむのか、いったい何を集めているのか、どんなトクをしているのか、そんなテツたちの実態が詳細に書かれている一冊だ。前述した『特急田中3号』は、企画した磯山晶プロデューサーがこれを読んだのがきっかけで誕生したとか。
ちょいテツの身としては、読んでみると「ああ、あるある」とついつい共感してしまうところもあれば、一方で、「そこまでやるか」と言いたくなるほどのハマりぶりに圧倒されてしまったところもある。二人分買って寝台列車の「ツイン」に乗ったり、頭の中で妄想列車を走らせたり、ループ線を通過するときは方位磁石を持っていったりなんて、素人ではとてもできない。まだまだこんな楽しみ方があったのかと気づかされる。入門書とは言ったが、テツ初級者にとっても、深く「学べる」一冊だ。
こういうテツの本が出るくらいなのだから、今度はいっそアニメオタク入門書なんてのも出してはくれないだろうか。変なイメージで見られがちなオタクをもっと知ってもらうためにも、誰か書いてもらえないだろうか。(もしかしたらあるかもしれないけど。)
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巨人軍論 ―組織とは、人間とは、伝統とは

「巨人」に対し人一倍のライバル心を持つことで知られる、東北楽天ゴールデンイーグルスの野村克也監督。その野村監督が、「私は誰にも負けない「巨人ファン」である」と公言して、「巨人軍」について書くというのはある意味衝撃だった。だが、彼の言う本当の意味の「巨人軍」とは、V9時代の巨人、それは創設以来の「伝統」を守り、誇りに思い、自分たちがプロ野球を引っ張っているという強い意識を持った、戦力だけでなく精神的にも強い「巨人軍」なのである。その強い「巨人軍」から、野村氏はすべてを学び、ヤクルト・阪神のチーム作りに活かしたという。
本著は、なぜ「巨人軍」が凋落したのかを、かつての強い「巨人軍」から分析し、「伝統」と「組織」、「人間」を考えるビジネス書となっている。
難しそうな話かと思いきや、内容は野村氏の実体験をもとに自身の考えを綴っており、非常に読みやすく面白い。V9時代の王・長嶋、川上監督ら当時の選手・監督の人物像や野球戦略・人間教育というところにまで踏み込んでいて、巨人ファンのみならず全ての野球ファンの人にとっては興味深い内容だ。こうしたところから野村氏は自らの組織論を展開していく。組織を作るうえで大切なのは、組織を構成する各自が自分の果たす役割と責任をはっきりと認識し全うすること。つまり「適材適所」だと野村氏は言う。9つのポジションと打順にはそれぞれ役割がある、素質のある選手を9人集めただけでは機能するとは限らない。そのためには監督(管理者)は各選手の個性をきちんと見極め、進むべき方向を示さなくてはならない。
野村氏は「適材適所」といえたV9時代の巨人の打線を参考にし、のちにヤクルト監督時代で、V9巨人のオーダーに近づけようと腐心していたという。野村氏がいかに「巨人」を意識していたのかを改めて思い知らされる。
最近は「巨人」のみならず、「ソニー」のような巨大企業の凋落も目立つ。かつてはトップを極めたチームや企業の凋落の原因の根は、同じところにあるのかもしれない。
~書籍データ~
<概要>
球団創設以来、最強を誇った「巨人軍」はなぜ凋落したのか。巨人への対抗心が生んだ野村再生工場、戦力補強に金がかかるのは当然、巨人のV9がID野球の手本など、敵将が徹底分析した不滅の「巨人軍」のすべて。 (amazonより)
<内容>
・巨人はなぜ凋落したか
・巨人への対抗心が野村再生工場を生んだ
・戦力補強は金がかかって当然である
・巨人のV9がID野球の手本だった
・組織作りの基本は「情」にある
・「伝統」とは何か
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