自然体の姿を見た『時をかける少女』
筒井康隆のジュブナイル小説で、原田知世主演、大林宣彦監督による映画版も人気を集めた名作のアニメ映画化である。監督は『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』で、その巧みな演出で多くのアニメファンを驚かせた細田守氏。かつて、『ハウルの動く城』の監督として、スタジオジブリから招請されながらも、結局、宮崎駿氏に監督を取られてしまったというのは、業界では有名な話。皮肉にも、スタジオジブリの『ゲド戦記』とほぼ同時期の公開となり、因縁の対決が実現した。
名作小説の映画化といっても、単なる原作のアニメ化ではなく、原作の主人公だった芳山和子が、今作の主人公の紺野真琴の叔母として登場しており、実質続編のようなストーリー構成になっている。真琴らは、当然のごとく現代の高校生として描かれており、原作を知らない人でも、十分入り込みやすいストーリー構成になっている。とはいえ、和子が自分の高校生時代について語るシーンもあるので、そこらへんは原作か実写映画版を見ておいたほうが、数倍楽しめるかもしれない。
その『時かけ』のキャストを見ると、メインキャスト陣はいずれも声優未経験。とはいえ、キャスティングにはオーディションで選んだということなので、話題性重視で有名人を起用する『ブレイブ・ストーリー』や『ゲド戦記』と比べれば、その点はしっかりしている。
紺野真琴役の仲里依紗をはじめ、石田卓也(千昭役)、板倉光隆(功介役)、垣内彩未(早川友梨役)といった面々は、いずれも劇中の登場人物と同年代。同年代の俳優を起用することで、自然な高校生の姿を見せようという製作姿勢があったのだろう。(もっとも、芸歴が浅いがゆえに、一部演技力が未熟な感も否めないが。)
私は、『時かけ』については名前は知っていても、原作・実写映画ともに見たことはない。それゆえ、内容もあやふやで、同じ大林宣彦監督作品の『転校生』とごっちゃになってしまうこともしばしばである。
そんな不届き者がなぜこの映画を見ることにしたのかというと、「ポスト宮崎駿」になりうるであろう、細田守というアニメーターの作品に一度触れておきたいと思ったからである。
実際に見てみると、現代に舞台を置いていることもあって、真琴たちをはじめ、みな今どきの高校生だ。
その高校生の描き方というのが、なかなか自然に思えてきて、十分に親しみを覚える。キャラクターデザインは、あの『エヴァンゲリオン』の貞本義行氏だが、こんなに自然体でかわいらしい女子高生も描けるのかと少し驚いたものだった。そして、真琴の、千昭に対する複雑な感情。それは友情なのか、それとも恋愛感情なのか、そんな微妙な感情表現を、ピアノの音色を上手く使った演出で、観客に訴えかけている。
どのシーンを見ても、観客の心を癒してくれるものばかりである。
そして、あっと驚く衝撃の展開。さすがにこの展開には驚いてしまった。しかし、それがあるからこそ、この『時かけ』は成り立っていると言っていい。ここは自分の目で確かめてほしい。
現在、Yahoo!ムービーのユーザーレビューでは、平均4.7点(5点満点)という高評価を得ており、おそらく今夏はおろか、今年全体のアニメ映画の中では最高評価を得そうな予感。
名実ともに、細田守監督は「ポスト宮崎駿」になれるか。今後に注目だ。
~作品データ~
<解説>
筒井康隆の名作「時をかける少女」を、映画、TVドラマ、リメイクを経て、新たな構想で製作した劇場用アニメーション。監督は『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』の細田守。声の出演は約200名超のオーディションで選ばれたヒロイン・紺野真琴役の仲里依紗をはじめ、『蝉しぐれ』の石田卓也が声優に挑戦するなどフレッシュな面々が集結した。恋に臆病な17歳の少女がタイムリープ(=時間跳躍)をする設定はそのままに、新たに用意された結末など見どころが満載。(Yahoo!ムービーより)
<あらすじ>
高校2年生の紺野真琴は、自転車事故をきっかけに、時間を跳躍する能力を持ってしまう。その能力のことを叔母の芳山和子に相談すると、それは“タイムリープ”といい、記憶の確かな過去に飛べる能力だという。半信半疑の真琴だが、日常の些細な不満やストレス解消などのため、むやみやたらに能力を乱用しだし…。(Yahoo!ムービーより)
<スタッフ>
監督:細田守(『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』)
脚本:奥寺佐渡子(『天使』『学校の怪談』)
原作:筒井康隆(『わたしのグランパ』)
音楽:吉田潔
キャラクターデザイン:貞本義行(『新世紀エヴァンゲリオン』)
主題歌:奥華子「ガーネット」
<キャスト>
紺野真琴:仲里依紗
間宮千昭:石田卓也(『蝉しぐれ』『ラフ』)
津田功介:板倉光隆
芳山和子:原沙知絵(『LOVE SONG』『蝉しぐれ』)
<関連作品>



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