衝撃映像・傑作が満載。「エスパー魔美」トークイベント
そのDVD-BOXの発売を記念して、アニメスタイルイベントとして『エスパー魔美』の上映会及び、チーフディレクターを務めた原恵一監督のトークショーが、9日に新宿・歌舞伎町の「新宿ロフトプラスワン」にて行われた。
原恵一監督といえば、2001年の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』で、大人も泣かせる傑作に仕上げ、続く2002年の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』でも、その完成度の高さが評価され、同作は平成14年度の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞したことで大いに知られている。その原監督が、初めてチーフディレクターとしてテレビアニメに関わった作品がこの『エスパー魔美』である。
会場となった「新宿ロフトプラスワン」は、土地柄もあってかサブカル色の濃い、アングラな雰囲気のトークライブハウス。司会進行の小黒祐一郎さんさえも「このロフトプラスワンで藤子アニメをやるとはね!この歌舞伎町で!」 と言い放つほど、藤子アニメにふさわしいのかどうかわからない場所。
会場では、小黒さんが「アニメージュ」に連載している「この人に話を聞きたい」の単行本が、先行発売。今回のゲストの原恵一監督をはじめ、湯浅政明さん、細田守さん、吉松孝博さんなど計30人へのインタビューがこの1冊に収められている。会場で単行本を買われた方には、「ロフトプラスワン」への入店にかかるチャージ料600円を、小黒さんが代わりに払ってくれるということもあって、大勢のファンがこの本を購入していた。
“アニメ様”こと小黒さんは、原監督が『ドラえもん』の演出をしていた頃から、「アニメージュ」のコラムで監督の演出に注目していた一人。初めて小黒さんから取材を受けたとき、その深い突っ込みように当時の原監督は、「気持ち悪い奴」と思っていたとイベント冒頭で暴露。こうして、この凸凹な二人のトークイベントが始まった。
本邦初公開。衝撃のパイロットフィルム。
今回上映されたのは、第1話の「エスパーは誰!」、第54話「タンポポのコーヒー」、第96話「俺たちTONBI」の3作品。いずれも原監督が絵コンテ・演出を担当しており、特に「俺たちTONBI」は自身で脚本も手がけた渾身の一作である。これに加えて、パイロットフィルムや、次回予告集(一部)といった特別映像も上映された。
最初に上映された第1話を見て、原監督は「(絵コンテ的に)あんまり変わってない」と、自らの成長の無さを嘆いている(?)かのようなコメント。
まだチーフディレクターになりたてのころだったため、役割がよくわからず、どちらかといえばプロデューサー主導で作っていたと当時を振り返った。
続いて上映されたのは、芝山努さんがコンテを担当(原監督は演出助手で参加)したというパイロットフィルム。公の場で公開するのはこれが初めて。DVD-BOXの上下巻連動応募特典のDVDにも、このフィルムが収録される予定である。
どちらかといえば高年齢向きの作りで、藤子F先生自身も魔美のテーマとして語っていた「ヌードの日常化」をそのままコンセプトに持ってきたこのパイロットフィルム。
テレビ版よりカッコいい高畑や、超能力使用時の電撃シーン、ヤケに綺麗なコンポコと、テレビ版よりも派手なシーンや演出の数々に観客からは驚きの声。
そして極めつけが、なんと魔美が全裸のままテレポート、そのまま敵までやっつけてしまうというシーンに、場内は衝撃と爆笑の嵐。今のご時世ではもちろんのこと、当時でも放送できないような弾けっぷりの「エスパー魔美」に、観客から拍手喝采を浴びた。
(ちなみに、パイロット版の魔美を演じていたのは荘真由美さん。のちに劇場版『星空のダンシングドール』で、人形劇団に所属する朋子役で出演している。)
原恵一カラー満載の「タンポポのコーヒー」「俺たちTONBI」
第54話「タンポポのコーヒー」、第96話「俺たちTONBI」は、どちらもアニメオリジナル作品で、原監督のカラーが全面に現れた傑作中の傑作。
「タンポポのコーヒー」は、当時八ヶ岳で暮らしていたある作家の雑誌のエッセイで、「タンポポのコーヒー」が取り上げられ、それを原監督と脚本の桶谷顕さんが読んだのがきっかけで生まれた作品。それにちなんで、今回は「タンポポのコーヒー」をロフトプラスワンさんが特別にご用意。小黒さんもタンポポのアイスコーヒーを注文。そのお味は、あまり味がしないのだそうで・・・。コーヒーというよりはむしろ、お茶の感覚に近い飲み物ということだ。
作品は、八ヶ岳での暮らしに馴染めない少年が、高畑や魔美の助けもあって、次第に八ヶ岳の自然と打ち解けるようになっていくというヒューマンドラマ。クラシック音楽を巧みに使い、自然の素晴らしさをうまく描いた傑作だ。
次回予告集・小休憩を挟んで上映された「俺たちTONBI」は、原監督自ら脚本を書き、米映画の『ヤング・ゼネレーション』みたいな話を作りたいと思い、自身も自転車が好きだったということで、自転車を使った人力飛行機を飛ばすことに青春をかける高校生たちのドラマを描いている。高校生たちの名前は、いずれ当時の有名自転車メーカーからとっていることからも、原監督の熱意が伝わってくる。
20年ぶりに見たという原監督は、「恥ずかしい。青臭いなあ。」と照れ笑い。劇中では、「リンダ リンダ」「人にやさしく」の名曲で知られるブルーハーツのポスターも登場。原監督は、もともとブルーハーツの曲をBGMで使いたかったそうだが、さすがに著作権の問題もあって実現しなかったという。ポスターに関しては、所属事務所の許可をとって描くことができたが、残念ながらブルーハーツは解散し、権利の所在が不明確になっているため、DVDの収録分ではポスターの部分は処理されることになっているそうだ。今回の上映分は加工前のものだったので、そういった意味では貴重な映像となった。曲が使えなかった悔しさからか、原監督は放送当時これを、ステレオでブルーハーツを流しながら、さもBGMがかかっているつもりで見ていたという逸話に観客は爆笑。原監督の作品に対する強いこだわりを伺わせた。
気になるDVD下巻と次回作は?
イベントも終わりに近づき、観客からの質問タイムに。
劇場版の『星空のダンシングドール』についての感想を求められると、原監督は「エスパー魔美としては失敗作だった」と評して、映画を見た子供が「つまんないから外に出てるね」と言って出て行ってしまったエピソードを明かし、場内の笑いを誘っていた。
原監督は、一時期裏番組だった「ミスター味っ子」についても触れ、「魔美」とは対照的に、カツ丼が光ったり、味皇様が猛烈に涙流したりと、超ド派手な演出がウリだった「味っ子」に、原監督は逆にショックを受けたと当時を振り返った。
そのあと、フロンティアワークスのDVD販売担当の方々が登場。
DVD-BOX下巻のPRを行い、下巻には、小黒さんがインタビュアーで参加した、スタッフ・キャストインタビュー記事が収録されるブックレットがついてくるとのこと。そして一騒動あった次回予告については、下巻では収録されるとのこと。上巻の次回予告については、パイロットフィルムが収録される上下巻連動応募特典DVDに収録される予定だ。
購入特典では、植田佳奈(上巻)・桃井はるこ(下巻)のトリビュートアルバムがついてくるが、二人が起用されたことについて小黒氏から説明を求められると、彼女たちはどちらも「エスパー魔美」の大ファンで、ライブでも主題歌をよく歌っていたことから白羽の矢が立ったとのこと。
すると、観客からは、「橋本(潮)さんや出演キャストが歌う企画は検討されたのか?」という鋭い質問が飛び、これについて担当者は「(植田・桃井のアルバムについては)アニメイトさんとのタイアップ企画で、既存ファンだけでなく、それ以外の方にも触れていただきたいと思い・・・」というちょっと苦しい弁明。これには、場内に気まずい空気が・・・。小黒さんが「人の想いはなかなか通じないものだねえ」とフォローを入れる一幕も。また劇場版のDVD化については「検討中」とのことなので、発売を期待したい。
そして、原監督は現在製作中の劇場最新作の進行状況についても話してくれた。
すでに原画の作業は終了しており、年内には完成予定。公開は来年の夏を予定している。絵コンテには(「おそらくこれまでのアニメ映画では一番長い」by小黒)3年をかけて描いた意欲作だ。
『エスパー魔美』『クレヨンしんちゃん』から続く新たなる原ワールドへの期待を膨らませながら、イベントは終了した。
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